心の旅

心の旅

ゴールデンウィークただ中、皆様、どのようにお過ごしでしょうか。「しののめ寺町」は通常通り営業しています!

 

店を始めて変わったことはたくさんありますが、時間の自由がきかなくなったことは大きな変化の一つです。旅好きな私でしたが、出かけることが難しくなりました。そんななか、お客様のお話を伺うことは、なによりの楽しみです。

 

桜が咲けば桜の様子を、紅葉すれば紅葉の様子を、ご覧になってきたばかりの興奮と共に、口々にお話しくださいます。美しさと共に、その場の賑わいまで伝わってくるようです。お話は京都各地、あるいは他府県にまで及ぶこともあり、店に居ながらにして、行ってきたかのような、見てきたかのような気分を味わわせていただいています。時に、一日ではとうてい回りきれない名所を巡る日も。(笑)

 

昨日のこと、長野県松本から日帰り旅行の男性のお客様が来られました。レンタサイクルであれこれお買い物の様子です。4月27日、上高地では開山祭が行われたそうです。山開きしたばかりの穂高連峰に、明日、登る際に持参するのだと、じゃこ山椒と塩昆布をご購入くださいました。おにぎりのお供に、山仲間へのサプライズとのことでした。京都でのお買い物の目的がしのばれ、遊び心満載の登山、お話を伺うだけでゾクゾクしてしまいました。

 

2012年10月18日のブログ「もう一度 立ちたい場所」で書きましたが、穂高は、時間が出来たら是非もう一度行きたい場所、眺めたい光景です。といっても私の場合、ロープウェイで登るのですが。

 

最近も雪が降ったとのことで、完全冬装備で登ると話されていました。うちのじゃこ山椒と塩昆布は、今日、どんな光景に出会っているのでしょう。今朝から、想像しては、ワクワクしていました。私が行けるのはまだ先ですが、一足先に行った気分を味わえました。しかも実際には登れそうもない高みまで、しかも私の知らない楽しい仲間と。

 

うちのじゃこ山椒と塩昆布、ご近所はもとより、全国各地に持ち帰られます。時に海外にご持参いただくことも。お客様からは、その先々での様子をお聞きかせいただきます。私自身がその場に居合わせるわけではありませんが、目の当たりにしているような不思議な感覚に陥ります。

 

心は自由だなと思います。

 

体はなかなか自由に動けない毎日ですが、心は自由に旅してくれています。これからも様々なお客様のお話を伺いながら、一人の人生では行き切れないくらい、いろいろな場所に出向きたいと思っています。

 

 

0 コメント

私の居る場所

私の居る場所

永年「ほぼ専業主婦」だった私です。開店を機に生活は激変、一日の大半を店で過ごす生活になりました。

 

自宅にいる時間は最低限の家事をこなすので精一杯です。とりあえず…、で見過ごしたあれやこれやが溜まっていきます。以前に引用した茨木のり子の詩「廃屋」(2012年4月25日【廃屋】)さながらです。特別きれい好きでも潔癖症でもないのですが、なにやら雑然とした家の中を見るのは、結構ストレスになります。

 

「しののめ寺町」の定休日は毎週水曜日と第2木曜日です。長く日曜祝日が休みという生活リズムに慣れ親しんできましたので、こんなにも祝日が多かったのかと今さらながら驚いています。ようやく、週の半ばの水曜日が休み、という生活が体に馴染んできました。

 

これまでのブログでも、台風で急にもらった休暇に何十日分も溜まった新聞を読んだだとか(2012年6月20日【時を紡ぐ時】)、夏の長期休暇にどこへも出かけず家の整理をしただとか(2012年8月28日【毎日 あの世に旅支度】)書いて、読んでくださった方にずいぶん呆れられました。(笑)

 

貴重な休みです。毎週、今度はなにをして過ごそうかと考えます。欠かせない用事を済ませたり、友達に会ったり…。そして、必ず頭に浮かぶのが、やっぱり家のこと。あそこを整理して、出来たらついでにあそこも、なんて調子です。 思い切ってちょっと遠出を、とも思いますが、家のことの方が優先されて、なかなか実現しません。

 

今の自分に必要なものを、常に過不足なく整えていくことが、とても大切なことだと思っています。多過ぎず、少な過ぎず。高価過ぎず、安価過ぎず。自分が心地よいと思える色や形にこだわって…。

 

気になっていたあれやこれやを片づけ、自分にとってなにが必要で、なにが無駄かを見極め、どんなものが心地よく、どんなものが不快かを確かめていく。自宅で過ごすそんな時間が、今、とても贅沢なものに思えます。

 

起業を決めて以来、主婦時代には考えられなかった経験をさせてもらっています。家にいたら決して出会えなかった多彩な方たちに会い、興味深いお話を聞く。毎日がとても刺激的で、今となっては欠くことの出来ない生活です。

 

その一方で、今までどおりのこうした生活もまた、とても価値のあることだと気づきます。店作りにもきっと反映しているはずです。

 

店と家、どちらも私の大切な居場所、大切な両輪…。一日は24時間。体は一つ。うまく折り合っていきたいと思います。

 

0 コメント

願わくば 花の下にて 春死なん

願わくば花の下にて春死なん

さる3月30日、「しののめ」の創業者であります木村ヨシが95歳で永眠いたしました。

 

願わくば 花の下にて 春死なん

その望月の 如月の頃            

 

西行

 

春爛漫、満開の桜の下での野辺送りとなりました。華やかなことが大好きだった義母らしい最期でした。

 

36年前に「しののめ」を創業、昨年の私たちの独立に当たっては大変尽力してくれました。仕入れ業者さんへの挨拶まわりの際に車椅子で同行してくれたのは、なにより心強いことでした。先々で温かく迎えていただき、懐かしい思い出話に花が咲きました。倍旧のご支援をいただけたのは、義母の尽力によるところが大きいと感謝しています。

 

親族経営から独立するということは、義母の大きな傘の下から離れるということ、雨風を自分で受けるということです。厳しくはありますが、覚悟を決めるしかありません。「しののめ寺町」開店を機に、私は義母と一つの別れを経験したように思います。

 

そのせいでしょうか、冷たい嫁と思われるかもしれませんが、私に涙はありませんでした。ただ安らかに、そしてこれからもお守りくださいと祈るばかり。そんな私に、今にも動き出しそうな遺影は、「頼んだぇ」と語りかけているようでした。「しののめ寺町」をしっかりやっていくこと、それがなによりの供養だと思っています。

 

親族の死に立ち会うことが続くこのごろなのですが、泣いても笑っても、最期は灰になり土に返っていくのだと、皆一様に、まさに身をもって教えてくれます。どんな人生であれ、見事だなぁと、不謹慎ながら感心してしまいます。

 

波乱万丈の義母の人生、幸せだったのか、どうだったのか。嫁の私には知るよしもありませんが、そんなことも、もうどうでもよくなっているのかもしれません。旅好きだった義母です。軽やかに天上へ旅立ったことと思います。

 

 

 

 

5 コメント