店を開いてからはすっかり時間がなくなりましたが、もともと本を読むことが大好き。願わくば日がな一日、本を読んで暮らしたいと思うくらいです。
数年前、宮本輝さんの「泥の河」に感動し、立て続けに何作品か読んだことが。そのなかに「夢見通りの人々」という作品がありました。
夢見通りに住む人々の人情味あふれる暮らし、心の機微があたたかい筆致で描かれています。詳しいストーリーは忘れてしまいましたが、ほのぼのとした読後感がタイトルの「夢見通りの人々」という心地いい音の響きと相まって、今も忘れ難い一冊です。
もう二年半ほど前のことになりますが、店を開くにあたって物件を探して、京都の通りを東西に南北に歩き回りました。そんななか見つけたのが寺町通りの小さな物件です。
程よい広さの車道を譲り合うように行き交う車。両側に青々と茂る街路樹。整備された歩道をそぞろ歩くひと。
味わい深い店が軒を連ねた趣ある商店街。そこに住まうひとの暮らしぶり。観光で訪れるひとの華やぎ。そうしたすべてがうまく融合して、えもいわれぬ風情を醸している通り。なんて素敵な街。
「夢見通りの人々」…、ふと、そんな言葉が心に浮かびました。
一目惚れしたこの物件が、今の店です。あれよあれよという間に契約に至ったのは、なにかのお導きとしか思えない幸運でした。(ブログ2011年11月28日)
改装中に足しげく通ううちにますます好きになり、開店後はさらにさらに好きになり…。好き過ぎて、この通りに店を構えていることが信じられなくなることがあります。長い長い夢を見ているんじゃないかと。
「夢見通りの人々」…、それは私自身かも。
店の前で置き看板を拭いていたりすると、うしろで「こんにちは」の声。振り向くと、近所のお店の方だったり、馴染みのお客様だったり。慌てて「こんにちは」と返事をする私…。あぁ、本当にこの通りに店を構えているんだ、夢じゃないんだ、と実感する瞬間です。
先週末はこのあたりの氏神様、下御霊神社のお祭でした。縁日が並び、多くのひとで賑わう通りを、長い巡行を終えたお神輿が夕方遅く神社に戻ってきました。
「夢見通りの人々」
担ぎ手さんたちのうしろ姿を見送りながら、今年もまた目頭が熱くなった私でした。(ブログお祭りの夜に)
今日5月11日(日)は母の日。どこのお店も華やかなディスプレイが目を惹きます。ビミョーな思いで眺めていたのも今は昔(ブログ贈り物日和)、今年は「しののめ寺町」でもささやかながら母の日にふさわしい包装あれこれと、プレゼント用にミニカーネーションをご用意しました(笑)。
その甲斐あってか、昨年より多くのお客様にご利用いただき、ありがとうございました。通りすがりにふらりと立ち寄られた若い男性、「買って帰るか」と独り言のあと、母の日仕様の【こばこ】をお買い上げ。私は心の中で大拍手! なんてことも。こうした瞬間に立ち会えるのは、本当に幸せなことです。
ディスプレイしている「お母さんありがとう」と書かれた掛け紙を眺めながら、届けられた先々で喜んでいただけたかなぁと気になっているところです。
「おかあさん」といえば思い出すお客様が。少し前のこと、養護施設で看護師として定年まで勤められたという女性が来店されました。障害を持ち、家庭では養育が難しい子供さんたちを預かられている施設です。「おかあさん替わりですね」と私が言うと、「でもやっぱり本当のおかあさんには適わないんですよ」と、こんなエピソードを話してくださいました。
その方がまだお若い頃、入所してきた子供さんに園長さんが「今日からこのひとがおかあさんよ」と紹介されると、たちまち「おかあさん、おかあさん」と言って懐いてくれたとのこと。いい気分でいたある日、実のおかあさんが面会に。するとその子供さん「ママ~」と叫んで駆け出して…。「おかあさん」というのはその方の名前だと思っていたことがわかり、皆で大笑いになったと。
切なすぎるエピソードに泣き笑いになってしまいました。
一方で、子供を切望しながら授からないことに苦しむ女性たちの存在も。とても素敵な女性でありながら、最晩年になってなおその一事を負い目に暮らしておられる方もいらっしゃいます。
母になること、子供でいることは、現実にはなかなか難しい。母の日近くなるとやたらと目につくテレビコマーシャルのようにはいきません。
私はというと、実母、義母共に今はなく(ブログこの道を通る日いつも豆腐買う、ブログ願わくば花の下にて春死なん)母の日のプレゼントに頭を悩ませることもなくなりました。子供は授かりましたが、いい娘ではなかったし、いい母親にもなれないまま今に至る…です(笑)。
親子というのは選べるものではありません。きっと神様が采配されたのでしょう。気まぐれにか、意図してかはわかりませんが、その組み合わせにはその組み合わせの意味があり、それぞれに学ぶべきことが含まれているように思えてなりません。
宿縁というように、それもひとつの縁。
ならば力を抜いて身を任せ、じっくり学んでいくのもいいかな。そんなことを思う今年の母の日です。
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