昨年のクリスマスに、お客様からこんなプレゼントをいただきました。ご自身が出版されたご本です。
大学生活の迷い方 女子寮ドタバタ日記
蒔田直子 編著 岩波ジュニア新書
蒔田さんは開店当初からごひいきいただいているお客様です。物腰がとても柔らかく、口角の上がった口元は、いつも笑顔でいらっしゃる様子が伺え、素敵な方だなぁと常々思っていました。お話しするうちに同志社大学の女子寮の寮母さんとわかり、びっくり。
寮母さんってドラマか小説の中のひとと思っていました。「寮母さんみたいに面倒みたわぁ」なんて、冗談半分のたとえに使うことはあっても、本物の寮母さんにお会いするのは初めて。イメージそのままに「これぞ寮母さん!」と腑に落ちたことを覚えています。蒔田さんは、そんな方。
「しののめ寺町」を北へ。御所の東側、新島旧邸の近くに建つ松蔭寮(しょういんりょう)は今年で50周年。25歳で若き寮母さんになられて以来、30年以上になるとのことです。
寮でのお話を伺う時、いつも蒔田さんの向こうに、女子大生たちのエネルギーが躍動するのが見えるよう。何人もの娘さんたちの10代後半から20代前半という多感な時期を見守り、共有されてきた人生ってどんなだろう、と想像してしまいます。
「素敵なお仕事ですね」と、いつも私。
「本当にありがたいことで」と、いつも蒔田さん。
十八歳で親元を離れ、緊張しながら一人で寮のドアを開ける時、新入生たちは生まれ育った場所の空気や匂いをいっぱいまとっている。そのときに立ち込める空気が、私は好き。
冒頭のこの文章で、私はたちまち涙してしまいました。ああ、この方にはこうしたものが見えるんだ。感じ取れるんだ。蒔田さんのことを素敵と感じていた私の感性は間違いでなかったんだ、と。
読み進むとすぐに、女子寮というものに抱いていた甘美なイメージが覆されます。経済的にも精神的にも自立的な寮生の皆さん。多感なお年頃は、危ういお年頃でもあります。「女子大生」として決して一括りで語ることはできない、一人一人のかけがえのない時間がそこにあったこと。その一人一人を丸ごと受けとめて来られた蒔田さん。時に涙ぐみながら、一気に読んでしまいました。
男女雇用機会均等法以降は「寮母」から「寮職員」に置き換えられているとのこと。それでもやっぱり「寮母さん」が通りがいいと、今も「寮母」と名乗っておられる蒔田さんの心意気そのままの素敵なご本です。私の拙い解説よりなにより、ぜひご自身で読まれることをお勧めします。
実は本の感動はもとより、蒔田さんが私にこのご本をくださったということ。お馴染みのお客様とはいえ、親しい間柄というわけでもない私のことを思い出し、お持ちくださったということ。そのことが、私にはまずもって感動でした。
店を開き、そこにお客様が訪ねてきてくださる。せっかくのご縁です。ほんの少しでもお話しさせていただくよう心掛けています。そんななか、ふとお客様の人生に触れたような気がすることがあります。
私の人生は、どうしたって一人分しか生きることができませんが、こうしたお客様のお話の中で、さまざまな経験や思いを味わうことができるような。自分の人生にもふくらみが生まれるような。そんな気がしています。
これからも一人でも多くのお客様とこうした触れ合いができたらいいなぁ。今回、この本を通して、改めてそう思いました。ご迷惑でなかったら、どうぞお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げます。
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