明日に架ける橋

店を始めて様々な方と出会う機会に恵まれるようになりました。多才な皆さん、なかにはライブハウスでライブを開かれる方も数人。先日はそんな知人の一人、Mikiyoさんのジャズライブに出かけてきました。私が出かけるのは今回が2度目です。

 

責任ある仕事につきながら、小さなお子さんのある家庭を切り盛りし、その合間に歌を続けてこられた彼女。とても小柄な女性なのですが、どこにそんなパワーがあるのかと驚くほどの声量と透明感のある歌声。前回、初めて聴いた時、たちまち魅了されてしまいました。

 

なかでも「Calling You」という曲を歌われた時のこと、「I am callig you 」という高音のフレーズで感じた衝撃は今でも忘れることができません。

 

I am calling you…と、私は誰かに呼ばれているような。

I am calling you…と、私が誰かを呼んでいるような。


なにかのメッセージを私に伝えるために歌ってくれているのかと思ったほど。祇園の小さなライブハウスで体験した霊的な感覚でした。彼女の魂のこもった歌声に導かれてのことだったに違いありません。終演後、彼女に「私のために歌ってくれたの?」と思わず聞いたくらいです(笑)。以来、シンガーMikiyoさんの大ファンになりました。

 

楽しみに出かけた2度目の今回、プログラムには意外にも「Bridge Over Troubled Water~明日に架ける橋~」とありました。私が中学生の頃でしょうか、よく耳にしたサイモンとガーファンクルの名曲です。

 

歌詞の意味も知らず、ただ何度も出てくる「トラブル・ウォーター」というフレーズが印象的でした。日本人の私の耳にはそう聞こえるだけで、きっと違った単語なのだろうと思っていました。「What time is it ?」が「掘った芋いじった」に聞こえるような。

 

Troubled Water …本当に「トラブル・ウオーター」だったのだと、今回初めて知りました。激流、困難といった意味でしょうか。君が辛い時、僕が激流に架かる橋のように、身を投げ出して君を助けるよ…なんて意味だとか。こんな情熱的な曲だったとは驚きです。

 

Mikiyoさん自身、ジャズではないのでチャレンジングな選曲なのですがと話されていましたが、ジャンルを超えて選ばれた意味がわかる気がしました。そして、その歌詞の通りの熱唱。今回も心が震えました。またまた、私のために歌ってくれているのかと(笑)。

 

終演後「私も明日に架ける橋がほしい!」と叫ぶ私に、「私がなりますよ」とこともなげにMikiyoさん。守るべきものがいっぱいある彼女、ましてやこんなにも小柄な彼女に、私の激流に架かる橋になんかなってもらったらバチが当たるというものです。ありがたいお気持ちだけ頂戴して、丁重にお断りしました(笑)。

 

以来、この曲が耳から離れません。朝、店へと自転車で走る時。夕闇のなか自宅へと急ぐ時。知らず知らず口ずさんでいます。

 

Like a bridge over troubled water

I will lay me down

 

「明日に架ける橋」は、やっぱり自分で架けなくちゃ。

 

頑強な橋はとうてい無理だけれど、小さな橋を明日へひょいと架けてみる。それなら私にもできそうな。そうして一日が終われば、また小さな橋をひょいと明日に架けてみる。そうして一日一日を過ごしていって、気づけばここまで生きてきた…、なんていうのが素敵だなぁ。

 

昔から耳に馴染んでいた歌が、何十年を経て蘇る。やっぱり歌って素晴らしい。

そんなことを思う9月も今日で終わり。明日はもう10月です。けれど、たいそうに考えずに、今夜も眠る前、小さな橋をひょいと明日に架けてみよう。そう思っています。