ムーンリバー

先月のこと、友人のジャズライブに出かけてきました。mikiyoさん、アマチュアながら相当の実力者です。初めて出かけたのは4年前でしょうか。たちまちファンになり、以来、案内をいただくたびに出かけるようになりました。

 

ライブで歌われる曲はどれも素晴らしいのですが、いつも、ひときわ魂の奥深くに届く一曲があります。1度目は「calling you」。2度目は「明日に架ける橋」。その時の私の置かれた状況や、心理状態とリンクするのでしょうか。とても暗示的で、霊的でさえあったことを覚えています。(ブログ明日に架ける橋

 

今回、事前に曲のリストをいただいていたのですが、その中に「ムーンリバー」がありました。オードリーへプバーン主演の映画「ティファニーで朝食を」で有名な、言わずと知れた名曲。出かける前から、ちょっと気になる一曲でした。

 

mikiyoさん、歌だけでなく、話もお上手。なかでも曲紹介は、英詞を和訳しただけでなく、彼女なりの解釈が、なんだかいいんですよね。そのまま主人公の気持ちになり切って、歌の世界に入っていけます。時に恋する乙女だったり、時に老練な女性だったり(笑)。

 

さて、いよいよ「ムーンリバー」、まずは曲紹介。映画のイメージから、甘いセンチメンタルな歌かと思いきや、とても壮大な歌詞であることに驚きました。虹の向こうの夢を叶えるため、この広い川を渡っていくわ、みたいな。抽象的な表現が、聴き手の想像力をふくらませ、様々なシーンに置き換えられそうです。

 

ここで突然、今日はお店を開いて5周年を迎えた方が来てくださっています、って話し出されて…。紆余曲折あったであろう5年間。その間、がんばってこられた、そんな姿を思い浮かべながら歌います…、なんて。私のことじゃないの ? ! って、もうビックリ。

 

そうそう、私は虹の向こうの夢を叶えたい。まだ遥か彼方だけれど、そのために、今、大きな川を渡っているんだなぁ。mikiyoさんの切なくも力強い歌声を聴きながら、熱いものがこみ上げてきました。

 

mikiyoさんのサプライズな演出はラストにも。ライブ終了後のアンコール。その日の演目から、もう一度聴きたい曲をリクエストするのがmikiyoさん流なのですが、なんと私にご指名が。

 

もちろん「ムーンリバー!」と答えたいところですが…。会場にはmikiyoさんの親しいお友達がたくさん。知り合って間もない、しかもジャズに全く詳しくない、そんな私がリクエストするなんて畏れ多いこと。「いえいえ、そんな…。皆さんのご意見を、どうぞ。あわわ、あわわ…」なんて、しどろもどろになってしまいました。

 

で、ご指名は次の方に。それが、たまたま私の隣の女性でした。その方も突然のことに決めかねて、私に「どうしましょう?」と。そこで、私、「ムーンリバーは?」と誘導したりなんかして(笑)。で、アンコール曲はめでたく「ムーンリバー」と相成りました。

 

が、実のところ、二度目の「ムーンリバー」は、私にはちょっとほろ苦く聴こえました。この顛末、いかにも私らしい。思いを素直に前面に出せなくて、なぜか、いつも引いてしまう。決意を力強く歌い上げる「ムーンリバー」の主人公とは正反対じゃないか、と。

 

実はこの日、もう一つ、似たようなことがありました。会場に早めに着けたので、カウンターはまだどこも空席。ステージと垂直に位置するカウンターは、一番前の席がいいことは、よくわかっていました。大好きなmikiyoさんのライブ、当然、最前席で見たいものです。

 

なのに、なんだか晴れがましくって、わざわざ3番目の席に座ったのでした。そこが、ちょうどクーラーの吹き出し口の下で、体は冷えていくばかり。せっかくの素敵なライブを聴きながら、心の中では、素直に最前席に座らなかった自分を悔いる気持ちがもやもやと。

 

私って、ほんと、どうして、いつも、こうなんだか…。

 

店を始めてからは、そんな私を見かねて、いろいろな方が、手を差し伸べてくださるようになりました。気づけば願いが、ひとつ、またひとつと叶い、そうして迎えられた5周年だったのだと思います。

 

私の虹の彼方の夢…、「しののめ寺町」を一人前の店にすること。

 

それを叶えたければ、思いを前面に出していかないといけないよ。言葉にしなければ伝わらない。まず目の前の小さな川を、自分の足で超えてごらん。勇気を出して…。二度目に聴く「ムーンリバー」に、そう諭されている気がしました。 

 

ところで、主演のオードリーへプバーン。晩年のユニセフでの活動も有名なところです。化粧っ気のない、皺の刻まれた顔を見た時は、正直、少し驚きました。けれど、気品と、凛とした美しさは、若い頃と変わらないようにも見えます。

 

改めて調べてみると、美しい容姿と華やかな経歴の向こうに、過酷な体験やコンプレックスを抱えていたとのこと。「ムーンリバー」を歌う若き日のオードリー。その頃、虹の彼方に夢見ていたものを、ちゃんと叶えられた人生だったのかも。なんて思いを馳せてみたりして。

 

mikiyoさんのライブはやっぱり不思議。その歌声は、私の人生の局面局面に、まるで天からのメッセージのように届きます。ライブが終わるといつも「私のために歌ってくれたの?」なんて、冗談交じりで聞いていたものですが、今回、確信しました(笑)。

 

これからも、ひととして、女性として、シンガーとして、ますます磨きをかけていかれるであろうmikiyoさん。その歌声に触発されながら、私の人生も実りあるものにしていきたい。それが私のもう一つの夢です。

 

8月21日(月)から25日(金)まで夏季休業とさせていただきます。お間違えのないよう、よろしくお願い申し上げます。